薄毛や抜け毛の悩みに対し、西洋医学的な治療法が広く知られる一方で、古くからの知恵である漢方を用いたアプローチが注目されています。育毛剤や内服薬が直接的に毛根へ働きかけることを目的とするのに対し、漢方は全く異なる視点から髪の問題に迫ります。その根底にあるのは、体全体のバランスを整えることで、不調の根本原因を解消しようという考え方です。漢方では、髪は「血余(けつよ)」、つまり血の余りであると考えられています。これは、体内の血液が充実していて、その巡りが良ければ、髪にも十分に栄養が行き渡り、健やかに育つということを意味します。逆に、血が不足したり(血虚)、流れが滞ったり(瘀血)すると、髪は栄養不足に陥り、細くなったり抜けやすくなったりするのです。また、生命エネルギーの根源である「腎」の働きも髪と深く関係しています。加齢などにより腎の力が衰える「腎虚」の状態になると、白髪や薄毛といった老化現象が現れやすくなります。さらに、体のエネルギーである「気」や、体内の水分である「水」のバランスも重要です。漢方による薄毛治療は、このように個々の体質を「気・血・水」や「五臓」といった独自の物差しで診断し、乱れたバランスを正常な状態に戻すことを目指します。そのため、単に髪に良いとされる生薬を摂取するのではなく、一人ひとりの体質に合わせたオーダーメイドの処方が基本となります。この holistic(全体的)なアプローチこそが、漢方治療の最大の特徴であり、髪だけでなく体全体の健康を取り戻すきっかけにもなるのです。